詩の鑑賞(3)「サーカス」中原中也

 幸田弘子先生の朗読された「詩」を鑑賞します。 
 中原中也の「サーカス」です。
 これは、2014年4月6日、藤澤におけるプライベートな会での録音です。

「サーカス」

      中原中也

幾時代かがありまして
 茶色い戦争がありました

幾時代かがありまして
 冬は疾風(しっぷう)吹きました

幾時代かがありまして
 今夜此処(ここ)での一(ひ)と殷盛(さか)り
 今夜此処での一と殷盛り

サーカス小屋は高い梁(はり)
 そこに一つのブランコだ
見えるともないブランコだ

頭倒(あたまさか)さに手を垂れて
 汚れ木綿の屋蓋(やね)のもと
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

それの近くの白い灯(ひ)が
 安値(やす)いリボンと息を吐き

観客様はみな鰯(いわし)
 咽喉(のんど)が鳴ります牡蠣殻(かきがら)と
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

 屋外(やがい)は真ッ闇(くら) 闇の闇
 夜は劫々(こうこう)と更けまする
 落下傘奴(らっかがさめ)のノスタルヂアと
 ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん