幸田弘子先生の朗読の魅力について語ってきましたが、しばらく、幸田先生の朗読と離れて、朗読そのものについて語ってみたいと思います。
泉田行夫が芥川龍之介の『蜘蛛の糸』を朗読し、自ら朗読の技術について解説したテープが残っていますので、少しずつ、ご一緒に考えてみたいと思います。
まず、『蜘蛛の糸』の糸が切れる場面をお聞きください。
その途端でございます。今までなんともなかった蜘蛛の糸が、急にカンダタのぶら下がっている所から、ぶつりと音を立てて断れました。
ですからカンダタもたまりません。あっと言うまもなく風を切って、独楽のようにくるくるまわりながら、見る見るうちに暗の底へ、まっさかさまに落ちてしまいました。
あとにはただ 極楽の蜘蛛の糸が、きらきらと細く光りながら、月も星もない空の中途に、短く垂れているばかりでございます。
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この部分について泉田行夫は次のように解説しています。
さあ、そのあとは蜘蛛の糸が切れて、カンダタの落ちていく場面ですが、こうした、落下する早い場面の表し方は、文章の途中に入っている句点や読点をとってしまいまして、「ですからカンダタもたまりませんあっという間もなく風をきって独楽のようにくるくる回りながらみるみるうちに闇の底へまっさかさまに落ちてしまいました」と一気に読み下すと、スーッと落ちていく様子が出てまいります。
その後は、もとの静寂に帰りますね。その表し方は、今の言い方と反対に、短く、プツッ、プツッ、と切って読むと、その感じが出ます。「あとには・・・ただ・・極楽の蜘蛛の糸が・・きらきらと細く光りながら・・・」、こんな調子ですね。
いかがですか、このあたりが、「蜘蛛の糸」の一番盛り上がって、ふたたびもとの動きのない静に帰る、山場といえましょう。
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長い解説文の中から、いきなり核心の部分を取り出しました。
ここに至るまでの解説も興味深いものですから、次回から少しずつ研究してみましょう。