「泉田行夫の『蜘蛛の糸』」朗読と解説(2)

 前回に続いて、泉田行夫が芥川龍之介の『蜘蛛の糸』を朗読し、自ら朗読の技術について解説したものから、ご一緒に考えてみたいと思います。
 今回は、文章のひとつひとつに役割があり、同じ調子に読まない、ことについてです。

 まず、解説を聞いてみましょう。

 さて、この蜘蛛の糸は、1、2、3と大きく3つに分かれておりますね。1は極楽のお釈迦様が中心で、私は、これを読むとき、静かな読み方をいたします。2は、カンダタの地獄脱出で、動きの多い表現をいたします。3は極楽のお釈迦様に焦点を合わせますから、静かに、つまり、静、動、静、と大きく掴んで読んでいきます。
 しかし、1だけを取り上げても、はじめに、ある日という時間のこと、お釈迦様は、という登場人物の紹介、極楽の場所の紹介などがありまして、次に、池の中に咲いている蓮の花は、と、極楽の風景描写に移ります。そして、次は、お釈迦様が池の中を覗かれる場面になると、はじめの説明紹介に比べて、お釈迦様が行動される、つまり、動きをだしていく読み方になります。こういう具合に、細かく、細かく変化を加えていく訳であります。

 それでは、本文の朗読を少しずつ聞いてみます。

 ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。

 時間や場所、登場人物の説明・・・さあ、おはなしが始まりますよ

 池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。極楽は丁度朝なのでございましょう。

 極楽の風景描写・・・美しい景色ですね

 やがて御釈迦様はその池のふちに御佇みになって、水の面を蔽っている蓮の葉の間から、ふと下の容子を御覧になりました。

 お釈迦様に動き・・・何か始まりましたよ

 ここで、この「やがて」の言い方について解説がありますので聞いてみます。

 ここから、お釈迦様のお動きになる様子が描かれておりますが、この、「やがて」の言い方でお釈迦様の動作が出るのです。ちょっと聞いてみてください。「やがておしゃかさまは・・」これでは、お釈迦様はお動きになりませんでしょう?
「やがてお釈迦様はその池の淵に」こういうと、お釈迦様はお動きになりますね。この「やがて」にその気持ちを入れて言ってほしいものであります。
 この極楽の蓮池の下は、丁度地獄の底に当って居りますから、水晶のような水を透き徹して、三途の河や針の山の景色が、丁度覗き眼鏡を見るように、はっきりと見えるのでございます。

 状況の解説・・・実はこうなっているのですと説明します

   ※   ※   ※

 まさに、それぞれの文章にそれぞれの役割があり、それぞれの読み方があるようです。