詩の鑑賞(11)「海の色さへ陽気です 時は楽しい五月です」ポール・フォール

 幸田弘子先生の朗読された「詩」を鑑賞します。 

 ポール・フォールの「空の色さへ陽気です時は楽しい五月です」です。
 これは、2019年6月27日、目白における会での録音(雑音等処理)です。

空の色さへ陽気です 時は楽しい五月です

    ポール・フォール

海は生垣(いけがき)の上に光ります、
海は貝殻のやうに光ります。
沖へ出て釣をたれたら楽しかろ。
空の色さへ陽気です、
時は楽しい五月です。

生垣の上に光つて見える
海はやさしい、やはらかい、
まるで嬰児(あかご)の手のやうだ。
撫でたら気持がさぞよかろ。
空の色さへ陽気です、
時は楽しい五月です。

微風が素早(すばや)い手でもって、
海と生垣を縫いつける、
針を動かす、光らせる。
空の色さへ陽気です、
時は楽しい五月です。

生垣のみどりの上に青海が、
蝶々のやうにひるがへる。
小舟のむれが動き出す。
空の色さへ陽気です、
時は楽しい五月です。

生垣の高さは海の深さです、
金色(きんいろ)の天道虫(てんたうむし)がはひまはる、
さても鯨(くぢら)のすがたのわるさ。
空の色さへ陽気です、
時は楽しい五月です。

頬辺(ほっぺた)を、涙がやさしく流れるように、
海は流れる涙です、
生垣の上を港へと。

しかし今、誰あって、
泣かうなどとは思はない。

「子供が港へおつこちた!」
「海へはまつて死んだとは、さて美しい死に態(ざま)だ。」

しかし今、誰あって、
泣かうなどとは思はない。

空の色さへ陽気です、
時は楽しい五月です。

   ※   ※   ※

 ・・・この詩、「病や戦争による理不尽な生き方死に方をさせられている裏でも、関係なく時はめぐる無常さや虚無感が漂う。」ということのようですが、エスプリであることは分かりますが、なんとも残酷な詩ですねえ。

ポール・フォールPaul Fort

わずか18歳で劇団「芸術座」を旗揚げし、メーテルランクらの象徴主義演劇を上演した。「芸術座」は3年で解散してしまったが、象徴主義をはじめとして新しい演劇の上演はリュニェ・ポーらによって引き継がれた。
(Wikipedia)