今回は、朗読における日本語アクセントの研究の続きです。
前回は、「日本語の一語一語は高低アクセントでできているが、文章になると、前後の関係から、アクセントが弱められることがある」ことを解説しました。
「蜘蛛の糸」という表題の場合、「くもの いと」の「い」の音が弱められて、「くものいと」となるということですね。
(今回の説明では、高い音を太字で示しています。)
もっとも、これが、「血かと思ったら、それは赤い糸でした」という文章なら、「糸」が重要になりますから、「それはあかいいとでした」と「糸」が強調されるに違いありません。
微妙ですねえ。
今回は、「蜘蛛の糸」の冒頭部分についての解説を聞いてみます。
本文の最初に出てくる、「ある日のことでございます」、これもそうです。アクセントどおりに読むと、「あるひの ことで ございます」となりますが、これは、「あるひ」の「あ」が高いものですから、「ことで」の「と」や、「ございます」の「ざいま」のアクセントが弱くなって低く続くために、「あるひのことでございます」と、こうなります。これと反対に、「お歩きになっていらっしゃいました」の場合ですと、つけてあるアクセントのとおりに読みますと、「おあるきに なって いらっしゃいました」と、なりますが、「なって」の「な」にアクセントがあるので、まるで、平らに聞こえる「おあるきに」を、高く上げて続きまして、「おあるきになって」、こうなります。その後に続く、いらっしゃいました、は、なっての「な」にアクセントがあるものですから、その影響を受けまして、低く続いて、全部を続けると、「おあるきになっていらっしゃいました」と、こうなります。こうした現象は、この朗読の中のいたるところに出てまいりますから、気をつけて聞いておいてください。
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う~ん、微妙ですねえ。
日本語のアクセントについて、専門書・「美しい日本語の発音ーアクセントと表現ー」田代晃二著 創元社」には、次のような説明がなされています。
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続きあがり
2語以上が一気に言われるとき、先頭語が平板なら後続語のアクセントが生きてなめらかに続く:
<おはようございます>は、<おはよう ございます>であるが“後続語の語頭が上がって先頭語の2階の高さに並び、あたかも1語のような姿となる<おはようございます>。
同様に
<おやすみ なさい> ⇒ <おやすみなさい>
以上は[平板から起伏へ]であるが、[平板どうし]でも同様!
<まるい かおを して いる> ⇒ <まるいかおを している>
<決めて おいて 行って しまった> ⇒ <決めておいて 行ってしまった>
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日本語の単語の一語一語にアクセントがありますが、文章の中では、なめらかに続けられて、アクセントが弱められることがあるということですね。