幸田弘子先生の朗読は、作者自身に成り代わって、私個人に語りかけて下さっているような朗読でした。
私はあるとき、ホールの後部座席に近い端の方に坐っていました。この時、先生は本をほとんどご覧になりません。目を座席の方に向けて読まれるのです。やがて、私の坐っている方向にも顔を向けられて語られますと、かなりの距離があるにもかかわらず、私の周囲の人たちは消えて、幸田先生が私ひとりに語りかけて下さっているような感覚になりました。ドキッとするというか、先生の語りに吸い込まれていく感覚でした。
(写真:浅野いずみ)
文:あべともゆき
2009年から「源氏物語を朗む会(幸田先生の朗読教室)」に通う。2018年2019年の幸田弘子朗読会の裏方として手伝う。