「ミラボー橋」アポリネール / 堀口大學
ミラボー橋
ギヨーム・アポリネール / 堀口大學 訳
ミラボー橋の下をセーヌが流れ
われらの恋が流れる
わたしは思いだす
悩みのあとには楽(たのし)みが来ると
日も暮れよ 鐘も鳴れ
月日は流れ わたしは残る
手と手をつなぎ 顔と顔を向け合おう
こうしていると
われらのうでの 橋の下を
疲れた無窮の時が流れる
日も暮れよ 鐘も鳴れ
月日は流れ わたしは残る
流れる水のように恋も死んでゆく
恋もまた死んでゆく
生命(いのち)ばかりが長く
希望ばかりが大きい
日も暮れよ 鐘も鳴れ
月日は流れ わたしは残る
日が去り 月が行き
過ぎた時も
昔の恋もふたたびは帰らない
ミラボー橋の下をセーヌが流れる
日も暮れよ 鐘も鳴れ
月日は流れ わたしは残る