「泉田行夫の『蜘蛛の糸』」朗読と解説(3)

  1. 『蜘蛛の糸』の朗読の研究を続けます。
    今回は、文章のひとつひとつにイメージがあり、その雰囲気を伝える、ことについてです。

 まず、解説の方から

 続いて、極楽の蓮池の下から見える地獄の景色の説明になりますが、極楽は明るく、そして地獄は暗く、と、対比して言いたいものです。すると、こうなります。「この極楽の蓮池の下は」「ちょうど地獄の底にあたっておりますから」「水晶のような水を透き通して」「三途の川や針の山の景色が」「ちょうど覗きめがねをみるようにはっきりとみえるのでございます」と、読んでいきます。それに続いて、地獄にいるカンダタの様子が出てきますね。「するとその地獄の底に」、この「すると」も言い方によって、動きが出てきますね。それから、「うごめく」という言葉が出てきますが、この言葉なんか、いかにもその様子をあらわしたいい動詞ではありませんか。

 この部分の朗読を聞いてみます。

 この極楽の蓮池の下は、丁度地獄の底に当って居りますから、水晶のような水を透き徹して、三途の河や針の山の景色が、丁度覗き眼鏡を見るように、はっきりと見えるのでございます。
 するとその地獄の底に、と云う男が一人、ほかの罪人と一しょに蠢(うごめ)いている姿が、御眼に止まりました。このカンダタと云う男は、人を殺したり家に火をつけたり、いろいろ悪事を働いた大泥坊でございますが、それでもたった一つ、善い事を致した覚えがございます。

 これに加えて、並べて語るときの注意点が解説されていますので、それも示しておきます。

 「このカンダタは、人を殺したり、家に火をつけたり、いろいろ悪事を働いた大泥棒でございますが」と、ここで、カンダタの悪事の説明がありますが、これは「人を殺したり」「家に火をつけたり」そのほか「いろいろの悪事」を働いたのですから、ただ、この3つを並べて言うのではなくて、「人を殺したり家に火をつけたり、いろいろ、悪事を働いた」と「いろいろ」の言い方は、悪事をまとめて言う感じで、悪事を強調して言うべきでありましょう。

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 どの文章にも、伝えたいことがあるのですから、聞き手が充分理解できるよう、作者の気持ちに代わって伝えてあげることが望まれます。また、物語であったり、考え方を述べた文章であったり、事実を淡々と伝える文章であったり、それぞれの文章の持つ雰囲気がありますから、それにふさわしい読み方が望まれます。それを探る作業が、朗読の醍醐味ともいえます。